牟岐大島を行く。
夜明けにキャビンからデッキに出ると、いつも、どんな風景に出会えるのかワクワクしている。

4月29日未明 西宮港出港
目が覚めると、ハッチ越しに見える空は青々としていた。
時計を見ると午前9時である。明け方、ワッチを交代してもらってからキャビンで仮眠を取ったが、まだ睡眠不足で気だるい感じがする。
オーバーナイトでは仮眠の後、デッキに出るとどんな景色に出会えるのかいつもわくわくしている。直ぐにキャビンを飛び出して周囲を見渡す。
太陽が青い海に降り注ぎ、海面はきらきらと光っている。僅かに風を感じるが、海は穏やかである。進路方向には間近に伊島(徳島県)が迫っていた。
今回のクルージングは伊島の東を回り、四国の南の沿岸に沿って牟岐にある大島を目指す。
いつも感じるが、このあたりに来ると引き波の泡はより白さをまし、海水の透明度は増し母港西宮と一続きの海とは思えないのである。
ずいぶん遠くへ来た気分に浸れるのだ。
寝起きでまだ体がハッキリとしないまま、スターンに腰を掛け、何気に景色を眺めていると、初めてペラの異音に気づく。
何かがペラに絡んでいるのであろう。毎度のことではあるが、いい気はしない。
ペラの回転を止め、ギアをバックに入れる。そしてまた前進に。何度か繰り返すが、異音と振動が解消されないので仕方なく目前の伊島へ寄港することにする。

伊島の木々もすっかり緑が増し、初夏の香りが漂っている。
着岸後、クルーの一人が直ぐにウエットスーツに着替えて潜る。しばらくすると、藻を掴んで浮上してきた。トラブルの原因は海面の潮目に点在する藻の固まりだったのだ。原因が分れば安心できるが、船底からの振動が取れなければ不安がのこり、航行していてもいつも気にしなければいけなくなるのが辛い。
ゆっくりもしていられないので、すぐさま大島を目指して出港である。
伊島からは大島の島影がうっすらと窺える。近いようで遠いのが海の距離である。
島の西側を通ればかなり時間と距離の短縮が図れるが、そうも出来ない事情がある。
海図によれば蒲生田岬(徳島)と伊島の間には数多くの暗岩や洗岩が存在するのだ。
実際、ここは古くから航海の難所であり、歴史的な文献にもその名が登場するほどである。何はともあれ、知らない海域を通るのはギャンブルに等しいので、安全に東を回ることにしたのである。
島の南に回りこむと岬と島の間は破線状に洗岩に当たった波がはじけている。
何とも恐ろしい感がある。

筆者のガンバ、伊島沖あたりでヘルムをとる

伊島の夕暮れ
島の入江の一番奥、鍵状に曲がった垂直に突き出た岩盤の前に6メートル四方の
ポンツーンがある。
大島まであと数マイル。
太平洋を見ると、弧を描いた水平線上で海と空が一つになっている。大阪湾では決して見る事の出来ない水平線がどこまでも続いている。
この太平洋の水平線を見に来たかったのだ。一人で悦に入る。

大島へは昼をかなり回ってから到着した。
島の北西にある入江でアンカリングする予定である。
入江の周りの岩場には釣り人が何人もいる。皆、休みを利用して磯釣りを楽しんでるのだろう。
入江の中央付近には渡船が数杯並んで停泊している。釣り客の渡船であることは直ぐに分るが、自艇をどこに止めてよいか分らない。
海図やGPSを頼りに進路を取るが、その場所に来るといつも想像とは違う景色が目に入ってくる。
渡船に近づき、やや緊張気味に舫を取る場所を聞くと、気軽に場所を教えてくれる。
ちょっと安心する。

島の入江は一番奥で鍵状に曲がっており、水面から垂直に突き出た岩盤の前に6メートル四方のポンツーンがある。
ポンツーンにはすでに一艇のグラスボート(海の底が見えるように一部ガラス張りになっている遊覧船)が舫ってある。どうやら使われていないらしい。
アンカーの準備をしていたが、そのままポンツーンに舫を取ることにする。
バウから3メートル前方には岩が垂直に切り立っているし、周りには小さな砂浜も数箇所見える。
水深に注意しながらスローで入っていく。どうやら水深はかなりあるようだ。
舫をとった後、ポンツーンの上をキョロキョロしながら徘徊する今回のメンバー4人。
入念に舫をチェックした後に艇のエンジンを切る。
デコンプを引くと、一瞬の静けさの中に、微かな鳥の鳴き声と砂浜に打ち寄せる波の音が聞こえる。木々はまぶしいばかりの新緑、そして空気が美味しい。ここは自然が満喫できる世界なんだと感じる。

ポンツーンの直ぐ下を覗くと、珍しい事にハリセンボンが泳いでいる。なんとも愛らしいその姿を皆、携帯電話のカメラに収めたがる。なんとも都会的な光景である。
早速、テンダーを使って、浜に上陸するメンバー。
岩場からウニや貝を拾ってきたようだが、どれも食に値しない。

日が落ちた後に夜空は無数の星が散りばめ、これもまた絶景である。
オーバーナイトの疲れからか皆、9時ごろには就寝である。
海面は極めて穏やかでキャビンの中は殆ど揺れを感じない。
母港の桟橋より遥かに静かであることは、あえて言いたい。
翌日は朝から釣りをするがなかなか釣れない。どうやら我々はサバイバルでは生き残れないチームのようである。
しばらくすると2艇のヨットが入江に入ってきてアンカリングしている。
和歌山から来た、おじ様の一行である。
早朝、年輩の漁師夫婦が網を上げに来たりと結構、人通り?があるでわないか。勝手に未開の地のように思っていたが明らかに経済水域である。

午後からはウエットスーツに着替えてダイビング。
岩場に沿って潜ってみる。透明度はあるが、海岸から岩盤にそって海底に滑り落ちる感じであり、かなり水深がある。
ポンツーンの下でも8〜10メートルくらい水深がある。
海の底も相変わらず、食べ物になるようなものは見当たらない。しかし。開放感にあふれ自然を感じれる素晴らしい場所であることは間違いない。

4月30日(2日目)
今日は前線が通過するようだ。雨がしとしとと降っている。
天候も悪いのでもう一日、滞在しても良いかと皆が思ったほど居心地は良い。

風がマストに当たりヨット特有のカラカラとゆう音が鳴り響く。今日はキャビンの中で殆どを過ごす。4人がそれぞれに時間を過ごす。
なんとも贅沢な時間の使い方である。
風は夜に向かって徐々に強くなるようだ。どうやら出港は明日になるのだろう。

5月1日(3日目)
朝方、遠くから水の流れる音がする。
その音が気になりキャビンから外へでて驚いた。
辺り一面真っ白。霧で10メートル先も見えないのである。
島はなんとも幻想的な世界を次々と見せてくれる。しかし、日が昇り気温が上がってくると徐々に視界が戻ってきた。水の音は浜辺の方からである。
テンダーで浜へ上陸すると、昨日までなかったはずの川が海へと注いでいる。
昨日降った雨が、山に染み込み地下水が集まって出来ているのだろう。
手を漬けると冷たいが、飲むと軟らかい感じがする美味しい水であった。
艇の水もかなり少なくなっていたので、川の水を数個のポリタンクに汲み艇のタンクに補給が出来たのが嬉しい。
今日は伊島に渡りたいと思っていたが、風はまだ落ちていない。
それでも、あまりいると食料難になるのでせめて伊島までは引き返さねばならない。
なにしろサバイバルには適していないチームであるから。

テンダーを引上げ、舫を解き出港する。
入江の向こうはかなり白波が立っていてしかも、真上りである。艇はかなりピッチングしてスプレーが顔面を襲う。
水中眼鏡をはめて舵を取るはめとなる。
風がやや左から入りだしたのでリーフを入れて機帆走とする。
2ポンリーフでも結構ヒールするのである。

数時間後、伊島に到着し舫を取るが、ここはいつも苦労する。
港内に結構波がはいるからである。いままで何度となくハルを傷つけてきた。北風が強いときは特にである。
念のため北側から、艇が岸壁から離れる方向へアンカーを落としテンションをかける。
夜中は艇が岸壁に打ち付けられる音で睡眠不足に陥る。
たまにフェンダーが破裂するおとやら、ダイレクトにハルが岸壁に当たる音はクルーを不安におとしめる。

5月2日(4日目)
天気は良いが風はかなり強い。海上は白波が立ちまだ荒れている。島をうろうろしたり、釣りをしたりで過ごす。
明日は出港せねば。

5月3日(5日目)
サントピアに入る。浮き桟橋の上はやはり良い。
上質のベッドの上で安心して寝れるようなものだ。
食材はタクシーで洲本のジャスコへ。ここまで来ると何時もの都会の生活に戻る。
明日は西宮への帰港である。

5月4日(6日目)
サントピアを出て直後、またもやペラから異音。
直ぐに引き返して、又潜る。同じものが絡んでいた。藻である。すぐさま出港。
風はアビームからクオーターである。
メイン、ジブともフルでセイリング。実はフルセイルは今回のクルージングでは初めてだったりする訳で...。
艇はストレスなく7ノットで走ってくれる。
午後3時前には無事帰着。

大島へは是非また行きたい。まだ行ったことのない人に見せてあげたいと思える自然色いっぱいの島だ。

伊島が霧で覆われていた。
ポンツーンの下を覗くと、ハリセンボンが泳いでいる。
なんとも愛らしいその姿を皆、携帯電話のカメラに収めたがる。
大島の入り江
午後からはウエットスーツに着替えてダイビング。
たたずむ・・・・贅沢な時を過ごす。
トコブシとウニ
ダイビングでゲットした数少ない獲物群。
Photo/Report・ガンバ(サウサリートヨットクラブ)
http://www.geocities.jp/gamba_akio/